なんてつメモ

どうってことない日々のあれこれ

朱川湊人 花まんま 角川書店

花まんま

花まんま

大阪の土地が舞台の短編集。あちこちの町の独特の空気感をここまで表現できるなんて思うのだけど、逆にそれを全然知らない他の地方の人たちにもわかってもらえるのかしら?と思う。それぐらい、リアルなんだよなぁ。そういえば、これが直木賞受賞作だった。

「トカビの夜」にのっけからやられてしまった。「パルナスの歌」を小道具に持ってこられた日には、胸がキュンとなるよ。「パルナス」は関西ローカルなケーキ屋さんなんだけど、CMソングがやたらと記憶に残るのだ。それはともかく、この作品に出てくるいじめは、この陰湿さは、されたことも、したこともあるので、どれだけ堪えるかわかる。その後の展開は、ファンタジックであると同時に、ホラーでもあるし、悲しみと救いにも溢れていて、絶妙だと思う。

他の短編も、周囲とは違う出自であったり、社会的に弱い立場の人たちが登場してくるのだけど、その背景にあるものを汲み取ってみせるのが、うまいなぁと思わせる。だからといって、幸福な結末が待っているわけでもないんだけど。

どうも今では放送禁止になっているらしいウルトラマンシリーズ(何代目か忘れちゃったけど)の宇宙人と浮浪児が出会うストーリーがあるのだけど、それが当時子供の私にとって、差別というものを初めて知り、そしてなんとも悲しい結末がひどく心に残っているわけですが(つか、ウルトラマンって勧善懲悪な展開がお約束だったのに、この回だけ異質だったのも記憶に残る原因かもしれない)、もしかしたら、作者もこれを観ていたのかしらと思った。違うかもしれないが、この短編集を読み終えて、ふっと思い出したもので。