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どうってことない日々のあれこれ

莫言 莫言自選短編集 白い犬とブランコ

白い犬とブランコ 莫言自選短編集

白い犬とブランコ 莫言自選短編集

著者の初期の短編集。「故郷の香り」の原作(表題)が所収されているので読んだ。

ページをめくった途端、猛烈な勢いでしゃべり倒すって感じです。一気に農村のコーリャン畑の風景や土ぼこりの匂い、川の氾濫のすごさ、生活の匂いが見えてくる、聞えてくる、それぐらいの勢いですよ。この饒舌さにただ圧倒される。表現が豊かです。美しい光景も過酷な現実も。そこで、生活の営みから見えてくる貧困や飢えに対する現実。人民公社があった時代だから、そうとう庶民は搾り取られている感じかなぁ。どうしようもない階級差は、子供の世界にもそのまま持ち込まれる。そこから生まれる悲劇には、頭を後ろから思いきり殴られるぐらいの衝撃を受ける。著者の筆には、躊躇という感情は一切産み出さないのだろうかと思えるほどです。日本だったら、確実にいろんな団体から抗議や糾弾を受けること間違いないだろうなぁー、いや、それまでに作品として世に送り出せないのじゃないかとさえ思います。
きっと現実はこんなもんじゃないだろうなぁ。今でも農村部にはこんな酷い現実はあるのかもしれない。

北京郊外で見た、たくさんの物乞いの子供たちを思い出してしまった。あれはかなりへこむ光景だったが、この短編集もかなりきついです。救いのない話ばかりでなく、庶民のしたたかさや艶福系(なのか)の小説もある。

映画と原作は全く別物だった。でも、原作のほうが流れとしては理解できる。ヒロインの「暖」の描写が全く違うからなぁ。それにしても、川端康成の「雪国」の黒い犬からインスピレーションを受けて出来た作品だけど、全然テイストが違うってのもすごいな。