なんてつメモ

どうってことない日々のあれこれ

読んだ

*【BOOK】上野 誠 万葉学者、墓をしまい 母を送る 講談社

万葉学者、墓をしまい母を送る

もっとシビアな母親を看取った体験記だと思って、手に取ってみたんだけど、予想外に軽妙な文体で書かれたエッセイだった。しかも、タイトルに万葉学者と謳っているだけにあって、「古事記」や「万葉集」からの看取りや殯のアプローチ今のシステムとして構築された結婚式や葬式に至る過程の考察も、が興味深いというか、腑に落ちることが多くて面白かった。

私は、親族やご近所の方が総出で、通夜や告別式の準備に取り掛かるさまを見てきた世代ではあるけれど、面倒だなぁと思いながら、今となっては郷愁さえ感じることがある。当事者になるのは、勘弁してくださいって思うんだけど。あの騒々しさは、一瞬悲しみを忘れられる意味もあったのかもしれない。どうだろうか。

行間から時折のぞく著者の思いが見送った人の安堵感と同時に喪失感は、これは言葉のない時代からも変わらない感情なんだろうと思う。だからこそ、千年以上遥か昔の人が詠んだ歌に心を打たれるのだと改めて思う。

著者の祖父が建立したお墓が想像つかない。どんだけ大きいお墓なんだろう。沖縄で見かけるお墓とも違うものらしい。仏舎利みたいな感じなのか。以前、高野山に行った際に案内人の人が「大きな墓を作る人のことを、大バカ者と言います」って説明を受けたことをまざまざと思い出した。維持費が大変だからって意味のことを言われた気がする。高野山には立派な建物といってもいいぐらいのお墓がたくさんあるけれども。

それにしても、7年間の入院生活を著者は詳しくは記してはないけれど、転院の繰り返しは、情報戦と書かれていたけど、神経が磨り減る思いだったのではと想像される。お疲れさまでした。

 

*【BOOK】梨木香歩 炉辺の風おと 毎日新聞出版

炉辺の風おと

梨木さんの作品は、気持ちを浄化させられるような装置が仕組まれている気がする。

私だけだろうか。車にカヌーを積んで、湖に向かうというエッセイを以前に読んだ時から、自然をこよなく愛している人なのはもちろんだけど、もっと大地に根を張った感じがする。八ヶ岳の山小屋暮らしを始めたそうで、雰囲気自然好きじゃなくて、アウトドアの人なんだなぁ。以前からの著作からもその片鱗は伝わってきたけれど。山小屋を買うって、相当だよなぁ。その生活ぶりも質実剛健。焚火するの、キャンプではないのに?って怠け者の私はおののいてしまう。そして、自然に対する畏怖を持って、生活をしているところが、本物だよなぁと感服する。そんなことを言ったら、私は猟師でも木こりでもありませんと言われてしまうのだろう。妄想が過ぎてしまった。

このエッセイでは、父親を看取ったことを触れている。抑えた筆致で描かれているけれど、これからのライフワークになるかもと言われるぐらい、強烈な体験だった。父親の想像を絶する苦しみとそれを理解してもらえない辛さはいかばかりだったのだろう。最期を自宅で迎えられたのは、せめてもの慰めや安らぎになったのだと思いたい。

2021年はもっと内省的な人間になりたいと思った。