なんてつメモ

どうってことない日々のあれこれ

善き人のためのソナタ

2006年 独 時間:138分 配給:アルバトロス・フィルム
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演:ウルリッヒ・ミューエ/マルティナ・ゲデック/セバスチャン・コッホ

シネ・リーブル神戸にて鑑賞

2時間越えに耐えられるのかしらと思いつつ、始まればみっちりと堪能できたよ。映画を観るというよりも、シュタージの一員であるヴィースラーをずっと監視しているような感じ。観ながら、どこかしら「仕立て屋の恋」に似ているなと思った。全く異なるタイプの作品なんだけどなぁ。陰で見守っているところが似ているからか。反体制としての監視対象としてされる劇作家と女優の恋人をヴィースラーは屋根裏部屋のような小部屋でずっと盗聴して、日々記録をとっていくわけですが、どうでもよいような些細なことまで記録していることに驚かされる。そして、体制側だとか反体制だとか一切縁のなさそうな生活を送っている人たちにも、否応なくそのシステムに組み込まれていく様子も描かれていて、成る程これは完璧な相互監視プログラムだわーと背筋が寒くなるほどに感心。ホントに息を潜めている、窮屈な日常だったのね。ヴィースラーは舞台の上の女優に惹かれて、彼らを監視していくうちに、彼らを結び付けていくものに興味を持ち、ブレストの戯曲を持ち出して読みふけったり、彼の孤独な生活ぶりも生々しくも映し出したりしていくのが、淡々と描かれている。結局、イデオロギーとかって理論じゃなくて、人に対する共感とかで覆されていくんじゃないかなとか思わせる。
彼の中で芽生えた感情は、女優を護ろうとするためにある行動を踏み切らせた。それは、彼は出世の道を閉ざし、またもや機械的な日常へと戻される。その後、劇作家はベルリンの壁崩壊後の情報公開で彼の監視記録を見ることで、真実を知る。そこには、彼の知らないところで起こった裏切りなども、またその逆もあったかもしれない。それは、彼だけじゃなく、当時の東ドイツの人たちは人間不信に陥り、乗り越えられないような傷を受けるようなことが記録されてあったかもしれない。
劇作家は崩壊後しばらくしてようやく新作を出版することになった。それを書ける様になるまでの年月はどんな思いだったのだろう。そして、彼の新作を見つけ、謝辞を見たときのヴィースラーの思い。「これは私のための本だ」の言葉が重い。これによって、全てが救われるわけではないし、許されるわけでもないけれど、希望がかすかに見えてくる。そんな感じ。
とても淡々と進んでいく、抑制の取れた感じが旧東ドイツぽい雰囲気を醸しだしているのだけど、そこからは感情の迸りが溢れている何とも心を揺さぶれる感じがいい。あと彼らを取り巻く人たちのエピソードがどれもが無駄にされずに活かされていることが感動させられたよ。でも、一番好感が持てたのは、一方的な正義や善と言ったものを振りかざさない作りだったことかも。