なんてつメモ

どうってことない日々のあれこれ

楡周平 骨の記憶 文藝春秋

骨の記憶

骨の記憶

末期がんの夫、弘明を看病する妻、清枝の元に宅配便が届く。中身は人骨。宛名は51年前に亡くなった同級生、一郎の名が書かれていた。

導入部で一気に引き込まれていく。亡くなっているはずの一郎の人生にページの大半を費やされていて、それは中卒者を「金の卵」ともてはやされた時代、高度成長期と駆け抜けた時期と重ね合わせて、描かれている。彼が成功をつかむきっかけは、戦後の混乱期だとありえなくもないなぁ、これって「砂の器」の主人公とちょっと似てなくもないと思った。
ただ、彼が成功したけれども、結婚相手にも愛情を持ってもらえずに、自分の来た道を振り返り、故郷をひっそりと訪ね、弘明と清枝が結婚していることを知り、復讐を決意する下りは何だか唐突にも、一人よがりにも感じた。
彼が中学を卒業して、想像したよりも劣悪な職場に身を置き、それでも身を粉にして働いている時代もあったのに、何が彼をこんなに変えたんだろうか。中学時代は裕福であったはずの弘明の家が、今はもう何もかも失おうとしていることもわかっているはずなのに、一郎視点で話が進むためか、そこの状況は一切斟酌されずに、一方的に恨みを増幅されている一郎の執念が恐かった。それは幼少期の紛れもなく存在した貧富の差ゆえだろうが。

でも、一番の被害者は清枝だろう。ただ、清枝の復讐は一郎の一方的な妄想に過ぎないのではないかとしか思えないぐらい、唐突に思える。というか、死んだはずの同級生の宛名で届いた人骨と同封された手紙を読んで、それを全て信じることができるものだろうか。それぐらい、介護に疲れたいたのかなぁ。

この小説を読んでいると、登場する女性が随分ないがしろな扱いを受けていて、腹立ちを覚える。随分いろんな人を不幸にしておいての復讐劇ってのも何だかなぁって感じで、もやもやした気持ちが残るばかり。