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どうってことない日々のあれこれ

小池晴子 中国に生きた外国人 不思議ホテル北京友誼賓館 径書房

中国に生きた外国人 不思議ホテル北京友誼賓館

中国に生きた外国人 不思議ホテル北京友誼賓館

北京友誼賓館は、今では一般客でも泊まることができるが、少し前までは、外国人それも専家と呼ばれる人たちが居住する所(招待所)だったとか。専家とは中国国家のために集められた技術者、専門家のこと。著者も専家(大学で教鞭を取るため)としてここで暮らして知ることとなる老専家何名かの印象やインタビューを綴っていているわけなんだけども、前半はほとんど著者が北京に赴任したときのカルチャーショックや仕事場で知り合った同僚や学生、生活の場で関わる人たちのことについて、ページが割かれている。それはそれで、興味深いんだけど、表題とは方向性がずれてしまっている印象で少しがっかり。しかしながら、著者が取材に長けたルポライターだったら、老専家たちも話す内容が違ってきたかもしれないとも思った。なぜなら、彼らは、今の中国国家の黎明期に、その思想に共感して、この国を訪れた人たちだからだ。専家とは国家のお墨付きをもらった外国人と言ってもいいかもしれない。でも、あくまでも「外国人」なのである。その微妙な立場を考えたら、文革を経験して、不安定な立場に立たされ(下放を経験した人がいるのにも驚いたよ)それでも、なお賓館でひっそりと暮らしている。そんな彼らが中国という国を語る視線は実に冷静であり、華美な賛美を唱えるわけでもない。そこから、中国の大きさを感じられて、恐ろしくなってしまう。
著者が直接インタビューをしたり、付き合いがあり、詳細にそのエピソードが語られているのは、川越敏孝氏とジョアン・ヒントン氏だけなのが実にもったいと思う。川越氏は個人的にも魅力的な人だと思われるが、やはり戦後の混乱期に中国共産党で仕事をするようになり日本共産党にも関わるようになる経緯は一冊の本にまとめてもいいんじゃないかと思われるほど興味深い。その中で、氏が漏らしてはならない機密が日本では既に知られていることとなっている下りは、なんとも言い難い気持ちとなった。
ジョアン・ヒントンアメリカで原爆製造の現場に関わったとされる人で、そんな人が中国に渡っていたなんて知らなかった。さすがに中国に入国した経緯は語られてない。何だかもっと深く知りたいなぁと思ってしまう。そんな意味では、面白いけれど実に惜しいなぁと思わせるのだ。

ジョアン・ヒントンは、パールバックの「神の火を制御せよ」のモデルらしいので、こちらも是非読んでみたいと思う。彼女は、中国では原爆製造の開発では関わってないと言っているけど、どうなのかなぁ。中国がそんな優秀な人材で現場にもいた人間を農業分野だけで留めておくはずがないと思うんだが。

神の火を制御せよ──原爆をつくった人びと

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