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どうってことない日々のあれこれ

河童のクゥと夏休み

2007年 日本 時間:138分 配給:松竹
監督:原恵一 原作:木暮正夫 
声の出演:田中直樹/西田尚美/なぎら健壱/冨澤風斗他

シネ・リーブル神戸


河童のクゥと夏休み オリジナル・サウンドトラック

河童のクゥと夏休み オリジナル・サウンドトラック

河童のクゥと夏休み

河童のクゥと夏休み

河童のクゥと夏休み 絵コンテ集

河童のクゥと夏休み 絵コンテ集

ネタバレしてます。

この映画は、公開前から興味があったのだけど、チラシを見て「可愛くない絵だなぁ」と思っていたのに、見始めて5分後ぐらいには「何て健気な河童なんだよぅ」とその世界に引き込まれてしまった。目一杯愛情を注がれて出来上がったのねーと作り手の想いがひしひしと伝わってくるアニメだった。

どちらかというと、河童のクゥがメインというよりも、河童のクゥと夏休みを過ごした康一の物語という印象かも。私としては、クゥメインで展開して欲しかったなぁと思うんだけど、ちょっとクレヨンしんちゃんを彷彿とさせる康一一家は、どこにでもいるような平凡な一家であり、その日常生活の細やかな描写には微笑ましくもあり、懐かしくもあり、共感できる面も多い。
そんなところにポンと表れたクゥの存在が波紋を広げる。その一連の過程でわかることは、クゥは人間に対して、一定の距離を保とうとしているのに、人間の方はやたらと距離を縮めようと無遠慮に近づいてこようとする。クゥがそれに怯えて、不思議な力を発揮すると、今度は気味悪がって、たたきにかかる。それに混乱して、疲れて切ってしまったクゥが出した結論に、康一一家がどうやって応えてやれるかというところで、始めてお互いの存在を認めて、理解できたところに安堵した。最近動物に対して、やたらと甘くなってきているような状況が見受けられるけど、その優しさはどう考えても動物の立場に立って考えられたものならいいが、結局は自己満足に過ぎないんじゃないかなぁと思っていたので、お互いの性質を理解したうえでの結論を出せたことは、康一のこれからにも良い影響を与えたんじゃないかと思うのだ。きっと、夏休み明けの登校は億劫だと思うけど、乗り越えられるだろうなぁとか思った。

康一の学校生活の中でも、お互いの距離感を上手く取れない様子が描かれているけど、相手を慮れない、言葉の攻撃とか、変な仲間意識だとか、自分の小学生時代も思い出して、自己嫌悪を覚えるぐらいリアルだった。人間の心は変わりやすいんだと、康一の飼い犬の「オッサン」がクゥに諭す場面があったが、その台詞が生きていると思った。

とても印象的だったのは、クゥの持つ不思議な力は、誰かを攻撃することに使われるのではなく、自分の身を護るために発揮されるものだったこと。クゥ自身も、人間に怯えたりするけれど、憎んだり恨んだりするような言動を見せないのだ。その辺りが、この映画を清々しいものにしている理由なのかもしれない。最後に沖縄の川でクゥが川の神様に対してつぶやく言葉にもジンと来たよ。自然に対して、謙虚で敬意を払う姿勢にも、小さいけど、立派な河童なんだねぇーとしみじみとしたのだった。でも、河童って平均寿命が何万年って感じなのかしら。ちょっとだけ、その力でお父さんを助けてあげられなかったのかとも突っ込んだのだけど、どうなんだろうなぁ。自分でもその力があることに気づいてなかったが。

正直、後半はテンポが急速に落ちてしまって、中だるみを感じたところもあったのだけど、クゥに出会ったことで、康一の内面の変化を描くのが主題であれば、それは必要なことだったのかと思う。ただ、人間にとっても最後の楽園みたいになっている沖縄の島へ行かせるのは、引っ掛かりを覚えてしまった。人間にとっての楽園が河童にとっても同等なのだろうか。

クゥも勇敢だったが、オッサンもクゥに負けないぐらい男前だったよ。クゥと同じぐらい(あるいはそれ以上かも)悲惨な体験をしてきたにも関わらず、いまわの際に発する言葉に涙を止めることは出来ませんよ。2匹の友情を育む場面も良かったなぁ。

いろんな問題、テーマを盛り込みすぎて散漫になってしまったという面もあるけれど、その為にどこかしら誰かしらの心に響くものがあると思う。クゥが今の日本で生きていくためのこれからを見守ってやりたいという思いで最終的には落ち着くってところで、この映画を観終わった後の清々しさに繋がるのではないかと思う。いや、でも、作り手の熱い想いが一番かな。

クゥやオッサンの言葉を思い返すと、目頭が熱くなってしまうな。