なんてつメモ

どうってことない日々のあれこれ

4163596704 観光 早川書房

観光 (ハヤカワepiブック・プラネット)

観光 (ハヤカワepiブック・プラネット)

読んだ後に情景が浮かんでくる短編集。
著者はタイ系アメリカ人だそうだけど、何だか日本人の感性に近いものがあるような気がする。
日本人の感性ってどうなのよ?と訊かれても答えられないんだけど。
表題作の「観光」は失明寸前の母親と旅行へ出かける息子の話なんだけど、
美しい観光地に行き、お互いの行く末を案じ合う風景や、母親が息子に諭す強さに引かれた。
サングラスを水底に落とす場面でいろんな想いが交錯する様子を一気に見せるところが
印象的だった。
「ガイジン」の自分のアイデンティティを必死に見つけようともがいている混血の男の子とか。
外国人観光客で四季を感じるってのが新鮮だった。辛らつだけど、共感できる。
「徴兵の日」が、特に印象に残った。
プリシラ」もいい。子供の目を通して見た移民問題だけど、お互い悪意を持っているわけではないが、
生活を脅かされる恐怖感と、そこから発生した事件の顛末の描き方が引かれる。

全編通じて、人の弱さを決して否定せずに、そこから生じる優しさやある種の強さを感じられる。
攻撃的であることが、強さと等しいわけじゃないんだと思える。
外国人作家の作品を読んで、すんなりと心に入ってきたのは初めてに近いかも。