なんてつメモ

どうってことない日々のあれこれ

中村文則 土の中の子供 新潮社

土の中の子供

土の中の子供

そういえば、芥川賞受賞作だったな(笑)
あんまり評判は芳しくないけれど、私は好きだな。主人公の心の中の独白は共感できる。ただ、周囲の人間関係の描き方が薄いというか、必然性がないというか。白湯子の存在が取ってつけたような印象がある。主人公と福祉施設のヤマネさんだけで成立するけどなぁ。何が私の気持ちを捉えたかというと、主人公の他人に対する態度や距離感かもしれない。それは、幼児体験から身に付いてしまったものだ。それが段々と明らかになってきて、最後に自分の中で忘れていた記憶が蘇り、そこから自我というものをようやく得る。今まで、意志を持たずに漠然と生きてきた彼が、そこから、ようやく歩き始めることができた。ここから始めることをヤマネさんに伝えることが、その一歩だ。捨てられたのではなく、捨てるのだ。それがこれから生きることを始める最初の選択にしたことで、これから変わっていける希望が見出されたと感じた。
実際に児童虐待を受けた経験がある人が読めば、感想は違ってくるかもしれないが。

同時収録の「蜘蛛の声」の方がもっと好きだな。なんかカフカぽい。どこから嘘でどこが本当なのかの際を読むのが面白かった。