中村文則 土の中の子供 新潮社
- 作者: 中村文則
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/07/26
- メディア: 単行本
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そういえば、芥川賞受賞作だったな(笑)
あんまり評判は芳しくないけれど、私は好きだな。主人公の心の中の独白は共感できる。ただ、周囲の人間関係の描き方が薄いというか、必然性がないというか。白湯子の存在が取ってつけたような印象がある。主人公と福祉施設のヤマネさんだけで成立するけどなぁ。何が私の気持ちを捉えたかというと、主人公の他人に対する態度や距離感かもしれない。それは、幼児体験から身に付いてしまったものだ。それが段々と明らかになってきて、最後に自分の中で忘れていた記憶が蘇り、そこから自我というものをようやく得る。今まで、意志を持たずに漠然と生きてきた彼が、そこから、ようやく歩き始めることができた。ここから始めることをヤマネさんに伝えることが、その一歩だ。捨てられたのではなく、捨てるのだ。それがこれから生きることを始める最初の選択にしたことで、これから変わっていける希望が見出されたと感じた。
実際に児童虐待を受けた経験がある人が読めば、感想は違ってくるかもしれないが。
同時収録の「蜘蛛の声」の方がもっと好きだな。なんかカフカぽい。どこから嘘でどこが本当なのかの際を読むのが面白かった。