なんてつメモ

どうってことない日々のあれこれ

三崎亜紀 となり町戦争 集英社

となり町戦争

となり町戦争

やーん、何これ、むっちゃ面白いじゃないのよ。今年読んできた本の中で一番面白いかも。3ヶ月もリクエスト待ちしたけど、待っただけの甲斐があったってもの。

ある日、唐突に「となり町戦争とのお知らせ」が広報誌に掲載されるところから始まる。主人公の北原は年度末の道路工事が始まったのと同じぐらいの感覚で「通勤はどうなるんだ」って心配するぐらいの能天気さ。実感の伴わない戦争は確実に広報誌に「戦死者」の数の増加によって起こっている事を確認することで知るぐらいだ。

今、新聞であちこちの国で起こっている戦争も内紛も、どれだけ実感できる人がいるのだろう。世界規模で起きていることを小さな町に移し替えることで、何て言うんだろうか、戦争のシステムを見事に描き切ったように思える。自分の知らないところで誰かが確実に命を落としていて、自分がそれを知らずに平和だよなァーなんて呑気なことをほざいていることを、そうじゃないんだと訴えてくるものがある。

今の、イラクでの戦争も実にシステムマチックに機能しているではないか。アメリカから「派遣社員」として戦地に赴き、亡くなった日本人男性も実質的には「兵士」として働いていたわけだし。そうやって、自分たちの思いを通り越したところで、戦争は事務的に機能も細分化して進められていくことの恐怖を実感できる。

そして、この小説の中でも実感のないまま戦争は終結していく。これは小説だけれど、描かれていることが現実なんだもの。それが一番恐ろしいことだ。

上手すぎますよ。残酷な戦闘場面など一切出てこなし、情に訴えるような文章もなく、ここまで戦争の悲劇というか内実を描ききれるなんて。