なんてつメモ

どうってことない日々のあれこれ

青山光二 吾妹子哀し 新潮社

吾妹子哀し

吾妹子哀し

 

痴呆症の妻、杏子とそれを支える老作家、杉の物語と紹介してしまえば、ありがちな介護体験記のように思われるかもしれない。ここに描かれているものは、老老介護の現実はもちろん書かれているけれども、その修羅場を通り越したというか、その状態を受け入れた夫婦の歴史が浮かび上がってきている。私たちは、ご老人を目の前にすると、今その状態でしか判断できないというか、しようとしないけれども、ここまでに歩いてきた道は必ずあったはずなのだ。
そして、時折若かった頃を思い出させる妻の仕草や言動に愛おしさを感じる夫の視線の暖かさに救われる。(でも、まさか「お医者さんごっこ」をするほど愛されるとはお見それしました(笑))そして確実に来るであろう妻が「寝たきり」になったときの不安も隠さない。揺れ動く感情の狭間にみえてくるものに激しく心揺さぶられた。

この夫婦の在り方は40,50じゃまだまだ書けないな。

中編の「無限回廊」は杏子を伴って「最後の墓参り」をするところから、杉の遥か昔の若気の至りを回顧している。夫婦の始まりが書かれている。そこに出てくるのは、リビドーに悩みつつ、情動に突き動かしてしまうどうしようもない若者でしたよ。奥様はそれを許していても、きっと深く傷ついた出来事だったんだろうなぁといたく同情してしまった。いまだに反省している老作家もどうかと思うけれど、そこがやはり夫婦というものなのかしらと思ってみたりして。