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どうってことない日々のあれこれ

堀江敏幸 熊の敷石

熊の敷石

熊の敷石

短編集。
表題作「熊の敷石」の冒頭が夢(とてもシュール)なので、もしかしたら、やたら抽象的なスタイルでかかれているのかと不安に思いつつ、ページをめくった。異国で知り合った友人との交流の中で、彼の民族が体験した事、それに影響を受ける思考を知っていくうちに、それを通じて、内なる自分と対話していく過程がとても新鮮で魅力的だった。
主人公のぼくは、後で「熊の敷石」の意味を知るわけだけど、それが冒頭の夢に無理にこじつけているのがちょっとひっかかる。あれがなければ、もっとすっきりするのにと思うが、この夢でこの作品を書くきっかけとなったなら、致し方ないかも。
「砂売りが通る」は、ストーリーらしいストーリーはないけれど、友人の三回忌で久しぶりに会った友人の妹とその娘と私の3人が砂浜を歩く風景がそれぞれの心象風景と重なって、なんともいえず美しい世界を作り出していて、一番好きだ。

全体を通じて、初めての土地を訪れたときに味わう孤独感や感傷を一時のものとせず、さらに内に向かっていく点にとてもひかれる。