なんてつメモ

どうってことない日々のあれこれ

野沢尚 深紅 講談社文庫

深紅 (講談社文庫)

深紅 (講談社文庫)

一家惨殺事件の被害者と加害者のそれぞれの娘が出会うって設定にハラハラ。
被害者の唯一の生き残りの奏子の感情の吐露には胸が突かれる。どこに自分の感情をぶつけて、整理していけばいいのかわからない彼女は、死刑判決を受けた加害者の娘がいることを知り、素性を隠して会う事にする。ここまでは、とてもテンポ良く読めたけれど、加害者の娘未歩に会ってからが急激にトーンダウンというか文章が引き気味なのか、急にご都合主義に話が進められて強引にエンドマークをつけたような感じがする。

結局、加害者は奏子の幼い弟たちを殺した描写がどうしてなかったのかもわからないままだ。未歩が父親が死刑判決を受けたときに「私も殺せばいいのよ」と言ったセリフとその後奏子と出会って自分の身上を話すときの思いと何だか微妙なギャップを感じて戸惑う。あんまり未歩の心理描写が奏子ほど丹念に描かれていないからなぁ。うーん。奏子の彼が事件のことを知っていたって話はいらんやろーとすら思う。結局、事件の本当の知りたい事は闇の中だ。判決が出てからといって、この事件にまつわる真相が全て明らかになったわけではない。彼女達を含め事件の関係者だった人達は、これからも埋められない心の穴を抱えて生きていかなきゃいけんだなぁと思うと、やりきれない。

乃波アサの「風紋」も同じように事件の被害者と加害者の子供たちを書いていたけれど、こちらのほうが数段読ませるものがあったな。

この作品はテレビ朝日で映画化する話がでていたけれど、どうなるんだろうね。多分、映像で2時間ぐらいにまとめて見たら、この世界にすんなり入っていけるのかもしれないなぁ、なんて思った。