なんてつメモ

どうってことない日々のあれこれ

 思い出の夏

2001年 中国 配給:ワコー 時間:91分
監督:リー・チシアン 出演:ウェイ・チーリン,チョン・タイション ほか

2年ぶりに村に映画上映会が開かれた。チャン・イーモウの「キープ・クール」(1997)が上映されたのだから、つい最近の中国の農村が舞台。
それから、数日経って、村に映画の撮影隊がやってきた。いろいろ苦心して、ようやく役を手に入れた村の小学生。普段は全然出来ない暗記も映画となると話は別。でも、あるセリフが引っかかって、どうしても言うことが出来ない。って紹介のされ方がされているけど、これは前半のストーリーで後半は別の展開になる。それがなんか取って付けたみたいで不自然に思うのは私だけ?

以下、ネタバレ

結局、遅々として進まない撮影に業を煮やした監督はここでのロケを中止して、新しいロケ地でこの撮影をはじめる事にした。助監督に最後の挨拶をしようとした小学生だっけど、ロケ隊は出発した後。そこで照度計を見つけた小学生はこれを届ける事にする。隣の町までは20km。自転車を乗り潰し、靴を履き潰しても、何とかこの忘れ物を届けようとするが…というのが後半のお話。

正直、映画としては、私の中ではもひとつだったんだけども、現代中国の農村事情や気質を知るには、大変興味深い作品だと思う。

中国には「農村戸籍」と「都会戸籍」があって、これのおかげで移動の自由が制限されているそうだ。なので、都会に出稼ぎに来ている人が子供を学校に入れることになると、都会の学校に入れることはまず難しいらしく、「戸籍」のある村の学校に入学するそうだ。それでも、収入が見込める都会に両親は働き続けることになるそうだ。でも、都会と農村では教育のレベルに格段の差があるから、子供の将来はそこである程度決まってしまうってこともあるみたい。

で、この映画の村も同じように荒れた土地に細々と農業を営んでいるような村だ。映画の撮影に参加した小学生がロケ弁を食べていると、友達が寄っていって「都会の弁当を食べさせてくれ」と分けてもらう。「すげぇなぁ、容器も使い捨てかよー、都会ってだけで美味しくみえるよ」なんて頬張っている。村には使い捨てのプラスチック容器とかもなく、ポットも昔ながらの魔法瓶を使っている。ロケに来た女優サンは携帯電話を持っている。村にはないものばかりで、憧れの目を隠さない村の子供達。多分、これは田舎を誇張させて表現しているわけじゃなくて、ホントにこんな感じの所が多いんじゃないかなぁと思う。

で、小学生が言えなかったセリフとは、都会に行った小学生が「お姉ちゃんの所(田舎)に帰って、一緒に暮らす」ってものだった。実際、村に住んでいる子が都会に行って帰るなんて信じられないってこと。村の人たちにもアンケートを取って、確信する。助監督にも、みんな思ってないんだから、セリフを替えてほしいと要求するぐらい、違和感のあるセリフ。

多分、この作品の劇中劇に出てくる映画は国策に沿って撮影されているものじゃないかと思われる。「都会に出ても良いところがないんだから、産まれた所で生きるのが一番良いんだよー」みたいな感じで。

そんなわけで、この作品は中国人が見て共感できる映画じゃないのかなぁと思われる。

そして、この小学生は最初に役を射止めた優等生から役を取り返すために、草を食んでいた牛を放して逃がし、優等生が追いかけている間に台本を盗んでしまい、彼が牛を探している間にまんまとロケに参加してしまうんだけど、この優等生は踏んだり蹴ったりで後でも何のフォローもなく、フェイドアウトされてしまうのだ。すんげー可哀想だ。そして、小学生は彼に対しても何の謝罪もしない。なんか、こういうところが、むちゃ中国人だなぁーと理由もなく思ってしまうのだった。