笹生陽子 ぼくは悪党になりたい

ぼくは悪党になりたい

母親が海外出張で不在がちのシングルマザーとまだまだ手のかかる異父弟がいる家庭環境はいささかハードだけど、主人公エイジは母の留守を預かっているしっかり者だけど、キャラとしてはいたって平凡。友達でイケメンで女の子にだらしなかった、なぜかゲームにはまってバーチャルな世界で純愛に目覚めてしまった羊谷はこの物語のアクセントになって面白い。ってか、この小説の登場人物はきっちり造られていて、エイジに絶妙な塩梅で絡んでくるんだよねぇ。
平凡なエイジの非日常的な経験を重ねに重ねにまた日常に戻ってくるわけだけど、鬱憤を爆発させてはみたものの、何となくしょぼーんしてしまうようなお兄ちゃん気質というのか小心者っぷりが微笑ましいです。
多分、子供が読むと面白いばっかりかもしれないけれど、大人が読むとエイジの心の奥にあるものが見えてきてしんみりする。すごい健気なんだもん。本人は自覚がないみたいだけど。児童文学は侮りがたし。