なんてつメモ

どうってことない日々のあれこれ

 森達也 下山事件(シモヤマ・ケース) 新潮社

下山事件 ISBN:4104662011

戦後史最大の謎といわれてる下山事件の真相に迫ったドキュメント。事件が起きてからもう50年以上経っているし、関係者はかなりの高齢でもう鬼籍に入った人もいる今に、目新しい発見を求めるのは難しい。それでも、丹念に取材を続け、点と点を線にする作業を重ねていく。そこから見えてくるものは、今の日本が形成されているのは、下山事件が起きたことから始まっているということ。事件の向こう側に横たわる闇はとてつもなく巨大で恐怖さえ感じる。そして、この事件には直接関係ないのに偶々関わってしまったばかりに犠牲になった人達がいることが恐かった。

この下山事件の取材を通して、個人で取材活動をする上の限界やテレビや雑誌、映像といった媒体の問題点も浮彫りになってきてくる。どのような手法で番組や雑誌が作られているのかと興味深く読ませた。週刊朝日の取材を巡るトラブルやそこから先を越されての作品の発表(諸永裕司著「葬られた夏」朝日新聞社)などは読み応えある。

これらの間にところどころ感傷的な文章が挟まっていて、微妙なところなんだけど、これだけの取材をこなし、様々な困難にぶちあたれば、感慨深くもなるだろうとも思えるし、これが作者の持ち味なのかもしれない。バリバリのノンフィクションを期待するとがっかりするかもしれないけど、私はこういう事件があった事実を知っていても、この事件があった背景はさっぱり知らなかったので、あえて21世紀にこの事件を知ろうとすることは大きな意味があると思うのだ。