なんてつメモ

どうってことない日々のあれこれ

佐伯一麦 木の一族 新潮社

木の一族 ISBN:4103814020
「ア・ルース・ボーイ」の頃のあの青臭さが眩しくて好きだったのに、彼はあれから10年過ぎると生活疲れを滲ませた男になっていた。この短編集は結婚して離婚するまでを描いた連作集だけど、語りが一人称だったり、三人称に変ったり、視点が変っているので、読んでいて落ち着かない。冷静に自分を描写したいってことの試行錯誤の表れなのだろうか。だとしたら、夫婦の関係をもっと向き合って考えるほうが先なんじゃないかと思ってしまうぐらい、これらの小説にでてくる妻は悪者扱いされている。関係の破綻は、どちらか一方が一方的に非があるってわけじゃないだろうと思うけど、甘いですか?こんな描きかたされたら、奥さんの家族だって怒るのは仕方ないよねぇ。それにしても、駅を降り立った瞬間の情景描写であぁ、この家族は上手くいっていなんだろうなぁと思わせる筆力は凄いと思う。で、読んでいて疲れる。希望が見出せないから。私小説は読むのが難しいなぁ。自身をモデルにして創作しているわけだけど、どうしたってこれが著者そのものだと受けとって読んでしまうものなぁ。自虐的な行為かもしれないが、それが作家の性というものかもしれない。(この作品、単行本でも文庫でも絶版で書店では入手は無理らしいです)