なんてつメモ

どうってことない日々のあれこれ

吉田修一 長崎乱楽坂 新潮文庫

長崎乱楽坂 (新潮文庫)

長崎乱楽坂 (新潮文庫)

文庫には長編と書いてあったけど、連作短編集みたいな作り。それだからなのか、書かれなかったその空白を埋めるだけの何かがちゃんと存在している。末端の極道の家で育った兄弟のそれぞれの生き方の違いが何とも。兄の駿はこの家や家族や出入りしている若い衆の鬱屈や周囲の反応を常に敏感に感じて生きている。外に出たいと願いつつも、呪縛のように身動きが取れない。でも、弟の悠太は何の躊躇いもなく軽々と飛び出していく。この差は一体何なんだろう。駿の心は三村の家の鬱屈を吸い込んでしまったのかも。負の連鎖とはこういうことなのかしら。でも、それだけじゃないんだよね。ラストは浄化ってことでいいのかな。
それにしても、吉田修一は上手すぎるよ。出てくる人たちのバックグランドとか見えてくるもんねー。