なんてつメモ

どうってことない日々のあれこれ

 夜のピクニック

夜のピクニック

夜のピクニック

祝!2005本屋大賞受賞
ノスタルジーの魔術師の名前にふさわしい作品。思いっきり気持ち良くその術中にはまってしまった。

丸一日ひたすら歩く歩行祭。地方の伝統校にありそうな行事だと思ったら、著者の出身校で実際行なわれている行事だそうだ。「白線流し」に通じるものがあるなーと思ったら、やはり、あれを見て「歩行祭」をテーマに書きたいと思われたそうです。「本屋大賞」に掲載のインタビューは結構面白い。

いつも見慣れている景色が友達と歩くことや違う時間に歩くことで違って見える。日常の景色が非日常の体験でまるきり別物になる。疲れてくるから、感情が剥き出しになってくる。高校最後の伝統行事。卒業前の漠然とした不安や焦り。それに決着をつけたい気持ち。半歩先を歩いている大人な同級生。けれど、半歩分だけだから、彼らは自分たちがまだ子供であることを充分わかっている。だから、それが大人なんだってことだけど。

今になってみれば、そんな気持ちを他人の分まで汲みとってあげられたのにって思いをこの作品では充分すぎるほど掬い上げて見せてくれる。あの頃は全然気づかなかったけど、生徒の数だけ、いろんな思いを抱えていたことを改めて思い出させてくれる。こうやって、郷愁を呼び起こし、なおかつ読後が爽やかな作品ってそうあるものじゃないなーと思う。それが本屋大賞につながったのかなと思う。
本屋大賞 (2005)