なんてつメモ

どうってことない日々のあれこれ

薮原検校

作:井上ひさし/演出:蜷川幸雄/音楽:宇崎流童
出演:古田新太/田中裕子/壌晴彦/段田安則

シアターBRAVA! 1階H列14番にて鑑賞

藪原検校 (新潮文庫 い-14-15)

藪原検校 (新潮文庫 い-14-15)

井上ひさしの戯曲を観るのは、これが2度目。言葉の使い方や選び方が上手いなぁというか、どうやったら言葉が生きるのかを考え抜かれているのが素晴らしいと思う。それに猥雑さも加わって、観ていて、「そんな言葉を使ってもいいのか」と驚愕したりしたけど、現代のお話じゃないしなぁとか思い直したりした。始終語り通しの壌晴彦は名人芸だったわ。ずっと聴いていたいと思わせるほど、結構長い上演時間だと思ったけど、この語りが飽きさせないことの1つだと思う。

開演前にパンフレットを通読しておけば、江戸時代の盲人の「当道座」の仕組みがわかって、芝居にも入りやすかったかも。もっとも、語りでこのことは触れられているが。言葉を文字として想像するのが、難しかったのだけど、それは芝居とはまた別の話かもしれない。この芝居を観ながら、検校がユダヤ人に置き換えても、これは成り立つなぁとか思った。虐げられた層にいるから、人に嫌われるような職業につくのか、その逆なのかというところで。

検校を目指すのに、悪行三昧で露悪的に生きようとしている杉の市、あえて清廉に生き、学問で身を立てようとする保己市の一見真反対の生き方をしているように見えて、考え方は同じで共鳴する部分が何とも切ないというか、その志の激しさに身のすくむ思いだった。あの2人の会話のシーンが一番好きかも。
杉の市は詰めの甘さで成功の階段を踏み外してしまうのだけど、これが過去の彼の生き方はその詰めの甘さでここまで来たというのか、ここに至ってしまったとも言えるし、そこが彼の最大の魅力でもあり、憎めないところでもあるんだよね。そんな彼に、最後の悪の華を咲かせるべく、保己市の放った言葉が、愛憎入れ乱れる思いが伝わってきて、お見事としかいいようがない。何て事を!と思ったら、あのラストだったから、思わず目をそむけちまったよ。

彼らを取り巻く人たちの人生を背景に浮かび上がってくるのが凄いよなぁ。それらを検校が背負ってきたってところも。

でも、古田新太はこれで満足していないでしょ?もっと深く演じられるんじゃない?彼の杉の市は魅力的ではあったけど、もっとその先の深い業の部分を見たかったなぁ。段田安則演じる保己市に気迫負けしてちゃだめだよー。がっつりと組んで欲しかった。なんか、先輩の胸を借りましたって感じの芝居だった。

田中裕子の使い方は贅沢だなぁ。幾つになっても、というか、年を重ねて更に色っぽいなぁ。