なんてつメモ

どうってことない日々のあれこれ

桐野夏生 魂萌え ! 毎日新聞社

魂萌え !

魂萌え !

主人に先立たれた主婦が出奔して何かをしでかす。そんな話だと思っていたのに、全然違うストーリーだったよ(笑)すごいうれしい裏切られ方かも。
小説の中に出てくる登場人物の描写がやけにリアル。しかも、その生活背景から何から見事に生きている。誰か自分にあてはまる人を探し当てられることができるんじゃないだろうか。

夫が定年を迎えた老夫婦という設定だと、何もかも悟りきって、心静かに余生を送るってのが定番だけれど、今見渡したところで、そんな穏やかな生活を送っている人たちはいるかしら。みんなギラギラしてるもの。つか、人生これからって勢いですよ。主人公敏子がプチ家出をしてから、出会う人たち−老若男女問わず、みんな問題を抱えて、もてあましながらも生きている人たちに出会ってから、荒波に翻弄される木の葉みたいな彼女がそろそろと自分のボートを手に入れて、オールを漕いでいく様子は頼りないけれど、堂々巡りばかりしていたころに比べれば、格段の前進だ。

彼女を取り巻く人たちも、残りの人生において最後の一花を咲かそうと火をおこそうとしている。その執念には少し怖じつけづいてしまうけど、それが自分の存在証明、自己確認であるならば、それでいいじゃないかと思う。結局は自分のために生きるのだ。なんつーか、いろんなものを捨てていったつもりが、得られることもなかったものに対しての飢えが増えていくのが老いではないだろうか、と考えたりするのは、自分がそれだけ若くなくなっていくことの怖さを実感しつつあるからかもしれない。